3rdアルバムのレコーディングを担当したエンジニアの中村公輔氏と、ルルルルズメンバー奥野大樹が、レコーディングとミックスに関する秘密を語る…?
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−中村さんが初めてルルルルズのミックスを行ったのは、2015年に発表されたNew Action!のコンピレーションアルバムでしたが、改めてルルルルズについての印象をお聞かせください。

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中村:印象としてはそうだね、とにかく生録りが多いバンドだっていうのはあるね。(笑)

奥野:そうですね。(笑)

中村:まあ普通だったら、管とか弦とかっていうのは打ち込みで全部入れちゃいましょう、みたいな話になるところを、全員呼んでやりましょうみたいな。今はね、なかなか全部生演奏でやるのは難しいじゃないですか。結構大きめなレコーディングでも人を呼んで録るのは、予算の都合とかもあって難しいっていうところを、プレイヤーを楽器ごとに呼んで全部録るっていう方向に進んでったから、それがだいぶ珍しいなって、思った記憶がありますね。

奥野:確かに。ここ(スタジオ)にスチールパン入れましたもんね。

中村:そうだよね。

奥野:スチールパンをこの宅内のスタジオで録れるっていうのは、人生で一度二度ないだろうなって。結構2ndの時から生録りは多かったですよね。

−前作の発表から2年ほど経過していますが、改めてどのような内容になっているのかをお聞かせください。

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奥野:前作を録った時に、フォーキーな生のサウンドっていうのを自分でも意識するようになりました。2ndの時はいくつかの楽器はシンセにしてしまおうと、デモの段階では考えていたんですよ、それこそスチールパンとか。あのような楽器って生で録るの難しいって考えていたんで。

 でも中村さんと一緒に作業させてもらうようになって、生楽器をそのままのいい音で抑えてもらえて、的確にミックスしてもらえるので、「中村さんとだったら、もうちょっとフォーキーなサウンドを追求できるかな」って思ったところが出発点で、今作は楽器を結構重ねましたね。

 前作はミニマルにスピーディーに作った感じではあるんですけど、今作は一曲の中で楽器がいくつ使われているかわからないくらい、生楽器を揃えて録ったので、サウンド的な違いはあるかなという風に思います。

−中村さんはいかがですか。

中村:2ndの時は割とビンテージっぽいというか、昔の音色にしていこうみたいな思惑がメンバーの方からもあって、僕としてはそういうところを意識していた節はありましたね。

 例えばカーペンターズみたいな70年代っぽいサウンドを録るために、当時の録り方で、楽器のレンジ感なども、ややビンテージを感じさせるような音色にしよう、みたいなことをやってたと思うんですよ、ボーカルの録り方とかね。それはそれとして結果を出した上で、次の3rdで何かやろうって思ったときに、前と同じことをしてもあんまり面白くないなと。

 あとはまあ、言ってもルルルルズは現代のバンドなので、当時と全く同じことをやるよりは、音楽的なルーツはそういう(70年代の)ところにありつつも、やっぱり現代にやっているという意味を考えて、ちょっと新しいサウンドにしていこうみたいなことを考えて、現代のテクノロジーとかを使って、「現代のフォーキーってのはどういうことなのか」みたいなことを考え直して、例えばちょっとレンジ感を抑えたりとか。古い音色の方向に脚色していくっていうことではなくて、出してる音はそのままで、今っぽいサウンドににしていくことを考えて作業をしていましたね。

奥野:それは境目ありましたよね。

中村:うん。

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−具体的にはどのような点ですか?

奥野:最初に一曲目をミックスする時に、古い方のサウンドにも新しい方のサウンドにも運べるんだけど、結局そこで新しい方を選んだことによって、3rdアルバムができたっていう手応えがある気がしていて、一曲目のミックスで古い方のサウンドを選ばなかったことが、面白い作品になったと思ってますね。

中村:初日はミックスしてなかったね。(笑)

奥野;してなかった。(笑)

中村:初日にどういった方向でミックスをやろうかって話をして、最新の生音主体の音楽を聴きまくって、どういう方向性にするかっていうのを話し合っているうちに終わっちゃったね。

奥野:そうですね。(笑) 初日はほとんど何もやってないですもんね。一曲目のリズム隊の音色を決めたくらいで、ほとんどなにも。音選びというか、音楽の作り方を考えるのにすごく時間を使ったんで。

 本当に最近になって音楽の聴かれ方とか、作り方とかが変わってるし、その中で我々は昔の音楽をルーツとして受けてやってるってことを、どのように表現するかっていうのは、すごく難しいところだと思うんですよ、未だに答えわからないし。ただ今回出来たことは次につながる意味のあることだったなって思いますね。成功したと思います。

−そうすると、やはり今回注目してもらいたいところは、ミックスに関してや、古いものをブラッシュアップするっていう方向でミックスを取り入れたという点など、そういったところですか?

奥野:そうすね。まあそもそもみんなルーツが割とフォーキーなものが好きだっていうことが根底にあるんですけど、70年代のことをやろうとした時に、理解できないこともあれば、矛盾も生まれてくるので。

 仮に70年代を追求して完璧にやったとしても、面白いものができるかっていうと、そこじゃないなとは思っていて、結局古い音楽はあくまでソースなだけであって、それを受け取って現代の音楽を表現したいということが自分の中にあります。

 今回3rd作ったことにによって、昔の音楽を自分の中に吸収して、どういったサウンドを作るか、という回路はちょっと見えてきたような感じはしていて。次もそういった魅せ方をもっと徹底できればいいのかなって思っています。そのあたりは結構マニアックな話なんですけど、聴く側からすると違和感を覚える人もいれば、面白いって感じる人もいれば、分かれ目だと思いますが、やりたいことはできたかなっていう感じはしてます。

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中村:古いものをやろうとして、当時のものに似せていこうとするとありがちなのが、当時のものを100%の箱の大きさとすると、その中に入って作品を作るので、それよりも小さいものしかできないんですよね。そうなると「これが好きな人が好きなやつだよね」っていう作品になってしまう。当時、普通のポップスとされていたものを目指して作品を作っているんだけれども、そこが好きな人向けのニッチなサウンドになってしまう。

 そういうことではなくて、普遍的なポップスのサウンドを聴かせたいといった、核になる部分は同じ気持ちでやってるけど、それをもっと広げていって、自分たちが好きな70年代のミュージシャンが考えていたようなことを今やろうみたいな、そういう方向でもう一回やり直そう、みたいな感じで進めたということですね。

奥野:そうですね。まさにそんな感じんですね。まあ結局だから上辺の技術とか、楽器とかの音じゃなくてマインドですよね、大事なのは。当時の人たちが今生きてたら何をしているか。まあそういうことだけでもないんだけれど。音楽を作る時の精神性というか、とういうところをある意味で踏襲していきたい感じはありますね。