3rdアルバムのレコーディングを担当したエンジニアの中村公輔氏と、ルルルルズメンバー奥野大樹が、レコーディングとミックスに関する秘密を語る…?
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− 新しいミックスの方法について、お二人での話し合いや相談をしたと思いますが、どのようなものを聴いて、どのあたりを取り入れたのか、具体的にありましたら教えてください。

中村:いろいろ聴いた中で僕が意識したのは、ライアン・フリーランドっていうエンジニアですね。最初は「リズライト」とかそのあたりを聴いたのですが、その人のミックスを聴いたときに、サウンド的にもフレッシュでいい感じだし、まあこの方向性いいねって話になったんです。その人のミックスをちょっと遡って聴いてみたら、2015・16年あたりから激変してたんですよね。

 それ以前の音は自分でも作れるし、やってたことがある音だったんですよ。言ってみたらルルルルズの2ndの方向性だったんですよね。激変したのが、ちょうどストリーミングやYouTubeのラウドネス規制というか、そういったものが出てきた時なんです。それまでだったら、70年代っぽい音にするときは、レコードを作ってた当時みたいな音にするし、もうちょっと音圧を上げて大きい音で聴かせていく、みたいな方向で音を作ってたと思うんです。けれどパツパツに音圧を詰めたからっていって、ストリーミングでは大きな音を鳴らせないメディアなので、ある一定以上のデカい音を鳴らすと音量を下げられちゃう。その中で、2016年くらいからライアン・フリーランドは踏み込んでいたので面白いなって。まあリファレンスにするっていうかね、スタート地点にしたっていう感じですね。

 内容が違うからもちろん違うことにはなっていますが、今っぽい音にしようっていう風に最初考えたのは、そこがスタートですかね。

奥野:レコーディングをしていたときは70年代サウンドにしようとしてたんですよね。

中村:まあそうだね、実際ね。

奥野:でもミックスの段階で色々参考に聴いてみたら「あーやっぱこれやりたい」って。結構聴きましたもんね、チャートたくさん見ましたよね。

中村:そうだね。世界各国の。

奥野:そうそう。(笑)

中村:Spotifyとかでチャートを見られるじゃないですか。それで各国のチャートのトップ20位までを全部聴いていったよね。

奥野:メキシコとか中南米まで聴きましたもんね。(笑) あれはなかなか面白かった。

中村:やっぱり先進国のいくつかは同じ方向性の音になっていっている中、完全にガラパゴスな感じの国もいくつかあって。

奥野:多分日本もそれなんですよね。

中村:そうだね。日本に来るフェスの特集のプレイリストを聴いたりすると、ボーカルが出てくる前に、これが日本か海外かって瞬間的にわかるでしょ、って。(笑) そのくらいのサウンドの傾向の違いがあって。そうはしないように、ってのはもちろんありましたよね。

− 素朴な疑問として、新しいミックスというのは具体的にどういったことですか?

奥野:一番わかりやすいところで言うと、Low感は違うんじゃないかな。音の詰め方とか、空間の使い方とかは僕目線で全く変わってる感じがしてますね。

中村:それは本当にそうですね。低音は全然出してっちゃってもOKだなって思って作ってるのは大きいですね。2ndはそんなに低音入れてないから。

奥野:今作と比べると前作はだいぶハイファイな感じですよね。

− 確かに2ndに関しては、今聴いてみてもサウンド的に結構ハイファイな印象を受けるのですが、意外と低音が出てる感じはないですよね。

中村:まあそうですね。最近は低音を出していいから。

奥野:中村さんがいつかリファレンスで聴かせてくれたポールの「エジプトステーション」面白かったですね。ローファイなんですよ、すごく。ポールのサウンド感っていうか、あの感じはそのままに、ローファイなんですよ。それがすごく面白いなと思った記憶があります。

中村:ポールもその時代を生きて来た人だからっていうのがあると思うけど、今の人の方がむしろ昔のサウンドに行こうとして、昔っぽく作っちゃったりするけど、昔からやってる人のほうが、新しいサウンドを目指して自分のやってることを今のフォーマットの中で聴かせようとしていることがあったりするから。

奥野:昔の人が今っぽくして、今生きてる我々が昔っぽくしたがるみたいなとこは結構ありますよね。音楽に限らずカルチャー全体で、ファッションもそうですけど。自分たちが未知のところに行きたがるんだろうね、結局は。

中村:そうね。今のテクノロジーっていっても、すごくわかりやすく現代的なエディットをしてるとか、っていう方向ではないから。メカっぽい感じにするっていう現代性じゃなくて、現代のいい音で録ったらどうなるのかみたいな方向ですかね。

奥野:だいぶマニアックな話に(笑)

中村:まあそうね(笑)

奥野:聴いてる人の現代感って、多分そういう感じですよね。メカっぽくてエフェクティブでっていう感じだと思うんですけど、またそれとは違う感じがあって。

− 嗜好いうか、思惑というか、そういった考えがミックスにかなり影響を与えている印象を受けますね。

奥野:ミックスがじわじわとボディーブローのように、音楽に影響を与えてるんですよ、結構。なんていうか、我々が聴いてるものでも、本当はそれは音楽の内容じゃなくてミックスがいいからカッコよく聴こえてるみたいなものもいくらでもあると思うし。ただ、結構な人がそれに気づかないから、エンジニアの職業って扱い的に不遇というか、なかなかスポットが当たりにくいところだから、そこは理解されてほしいと思いますけどね。

中村:まあとはいえソース次第なので、なんとも言えないけどね。実際に現代的な感じに音を間引いてミックスができたのも、ルルルルズの音楽だからっていうのもあって。

奥野:ありがとうございます。

中村:いやそれはもう本当にね。例えば最近、特に邦楽はそうですけど、むやみに音を積みまくるじゃないですか。そういう風に音を積みまくっているものは、ミックス段階でのサウンドの作りようがないんですよね。

 アレンジの状態で音色が全部ベタベタに詰まってると、どこかを引くこともできないし。例えば一個一個の音色を魅力のあるサウンドに変えようとか、芳醇な音で鳴らそう、みたいなことをやってくと、アレンジにおいて邪魔になってくるじゃないですか。だからその楽器が最低限ここだけ鳴っていればわかるなっていうところだけに削り落として積んでいく、みたいなことしかできなくなってしまうんですよね。それがルルルルズの場合は、楽器は色々入ってるって言っても、必要のない音は入ってないと思うんですよ。だからミックス段階での音作りができるところはあると思うんですよね。

 例えば、同じように楽器が大量に入ってるっていっても、空間を埋めるためにとりあえず足してる音だとか、ユニゾンで似たようなラインを入れといて補強しておくとか。間を埋めるための音が異常に入ってるっていうことがよくあるんですよ。打ち込みでアレンジをすることが増えてるからだと思うんですけど。そうすると、やっぱりどんなにいいソフト音源であっても、生みたいな無駄な音はなくて。

 最初から作り込んで「この楽器の音はこうですよ」っていうシンセで作った音色と生録りは違うじゃないですか。生楽器は無駄な音まで聴かせることで臨場感があるというか、気持ち良さみたいなものが、そこに出てくる部分もあると思っていて。そういうところは出していこうっていう風に、今回は特に思ってやりましたね。